
モビルス株式会社
代表取締役社長 石井 智宏 氏
コンタクトセンター・サポート業務のあるべき姿を刷新していく
モビルス株式会社は、コンタクトセンターのサポート領域に特化した多彩なソリューションを開発・提供している「The Support Tech Company」。これまでは電話を介した属人的な業務を強いられていたコンタクトセンターのサポート業務に、チャットを中心としたテキスト化および自動化を適用することで、大幅な効率化を実現するソリューションを投入。数多くの企業の課題を解決し、2021年9月には東証マザーズ上場を果たしています。そのモビルスを率いる代表取締役社長の石井智宏氏に、三菱UFJキャピタル(以下、MUCAP)との関係性や今後の展望などについてお聞きしました。
モビルス入社に至る経緯
~ 受託開発中心のシステム会社からの“離陸”

私は学部卒でソニーに入社したのが社会人キャリアのスタートになります。最初に配属されたのが中南米課という部署。2年目が終わる直前に現地駐在で中米・パナマに飛びました。当時のソニーでは海外赴任すると、年令に関係なくマネジメントポジションが与えられます。ここでマネジメントの修行を積みました。これらの経験を学問的に位置づけたいと考え、休職して米国でMBAを取得しました。そして帰国後に退職、ソニーには通算で11年お世話になったことになります。
帰国後は、さわかみ投信、ソニーの元トップである出井伸之氏が創業したクオンタムリープなどでキャリアを重ねてきました。クオンタムリープ時代に私がメインマーケットにしていたベトナムで拡がった人脈の中で、モビルス創業者のラン・ホアンと知り合うことになり、しばらくしてから、モビルスのビジネスをテイクオフさせるために力を貸してくれないかということになりました。
当時のモビルスはさまざまなシステムの受託開発を粛々と進めているという状態でしたが、創業者をはじめ実力ある外国人エンジニアが多数を占めていて、チャットの送受信を担うサーバー技術に光るものがあるなど、おもしろい会社だなと思ったものです。また、大手企業を中心に、いいお客様がたくさんいらっしゃいました。単に受託開発を回していくという以上にポテンシャルがあるのではないかと考え、モビルスにジョインすることになりました。
三菱UFJキャピタルとの出会い
~ 初回面会時、「なんとかするから」のひとことに驚かされた

モビルスを成長させるに際しては、受託開発からライセンスビジネスに方針転換することを決めました。そのためには大きな開発投資が必要です。クオンタムリープ時代にスタートアップ支援に関しての経験値も積んでいたので、売上が立っている会社の資金調達に苦労はないだろう考え、投資家への営業活動を始めたのですが、これが見事に連戦連敗という状態でした。どこも「No」とまではいわないものの、なかなか話が前に進まないのです。
そんなときにある伝手を頼り、大手商社系VCの元経営者で、現在は当社の社外取締役を務める安達を紹介されました。最初に面会した時は、安達にもずいぶんとつれない対応をされたものです(笑)。
ただ、なんとかその後に続く関係性を構築できて、なにかとアドバイスをいただくようになりました。そして彼を介して、MUCAPをご紹介いただくことになりました。2015年のことです。
MUCAPと初めてお会いした時、ひととおり話が終わった後に「なんとかするから」とおっしゃっていただいたことに、とても驚いたことをよく覚えています。初対面の私たちをそこまで支持していただけた理由は、当時はまだコンタクトセンターに特化するという方針も、ビジネスモデル自体も固まりきってはいなかったのですが、チャット関連のサーバー技術の高さを評価いただいたのかなと思っています。

三菱UFJキャピタルとのリレーション
~ こちらが動きやすいように導いてくれるVC
以前の経験から、メガバンク系VCはなかなかリードを取っていただけないと思っていました。ところがMUCAPは「そこもやるから」とおっしゃり、実際に先頭に立って動いてくれました。MUCAPは並行して取引先候補を紹介してくれただけでなく、一緒に共同投資する事業会社まで探し出してきてくれました。この中には、現在では当社トップクラスの代理店となる会社も含まれています。MUCAPのGOサインがトリガーとなって、他のVCや投資家たちも動き始め、無事にファーストラウンドをクリアすることができました。
その後、2、3回目の資金調達についてもMUCAPにはリードを取っていただきました。2、3回目についてはどれくらいのバリエーション、規模で実施しようということを、MUCAPのコミットがあるということを前提に事業会社に提示できたため、非常に話をすすめやすいラウンドになりました。
こうしたお付き合いを通じて、MUCAPと他のVCとで明らかに異なっていたのは、コミットのレベルの深さだと思っています。
いよいよ上場準備というときに、当時の監査法人からは今のスケジュールでは受けられない、スケジュールを後ろに倒させてほしいといわれてしまい、MUCAPに相談したら、当時は監査難民と言われる程に監査契約を結ぶ事が難しい状況の中、即座に別の監査法人を連れてきてくれました。MUCAPは、我々が動きやすいように先回りして考え、実際に動いてくれる。非常に手厚く関与していただいて、最後まで伴走していただいた事に感謝しています。
今後の展望
~ コンタクトセンターの応対負荷を軽減していく
私たちは「The Support Tech Company」を自称しています。企業のコンタクトセンター周辺の業務は属人的なオペレーションが中枢を占めており、多くの課題が残る領域です。この領域を、テクノロジーを活用して効率化し、より付加価値の高いサポートが提供できるようになっていただくことが当社のミッションです。この市場だけでもかなりの伸びしろがあると考えています。まだ市場のおよそ8割が電話中心のところを、当社のソリューションによるテキストベースのコミュニケーションを5割に伸ばし、さらにその半分を自動化していくということをこの先5年のスコープとしています。当社の顧客企業層はエンタープライズが中心ですから、メガバンク系ならではのネットワークをお持ちのMUCAPには、この先もご支援いただければと考えています。
これから起業しようという方にアドバイスをするならば、自分の市場がどこにあるのかをある程度見極められると、気持ちが楽になるということでしょうか。当社の例でいえばコンタクトセンター領域で、なおかつテキストベースのコミュニケーションということですね。自分たちだけの市場というのは実は競合の有無は関係ないものです。自分たちが勝てるだけの付加価値が見いだせるならば、そこを深く掘れば掘るほど、特に競合する大企業は付いて来られなくなるし、逆に応援してくれる人も出てくるのだと思います。その最たる存在がMUCAPであったことはいうまでもありません。

2021年10月 取材
会社名
モビルス株式会社
https://mobilus.co.jp/
主な事業内容
- コンタクトセンター向け SaaS プロダクト(モビシリーズ)などの CXソリューションの開発・提供
沿革
2011年 | 9月 | モバイルアプリケーションの受託開発事業を目的に東京都港区芝公園にて設立 |
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2013年 | 6月 | 東京都品川区西五反田一丁目に本社移転 |
2014年 | 12月 | 石井智宏が代表取締役に就任 |
2016年 | 4月 | 「モビエージェント(MOBI AGENT)」のサービス開始 |
2017年 | 4月 | 「モビキャスト(MOBI CAST)」のサービス開始 |
2018年 | 5月 | 東京都品川区西五反田三丁目に本社移転 |
2019年 | 10月 | 「モビボイス(MOBI VOICE)」のサービス開始 |
2021年 | 9月 | 東証マザーズ上場(証券コード:4370) |