高齢者と介護家族が笑顔でいられる社会を目指して
株式会社笑美面は高齢者と介護施設をマッチングするサービスをメイン事業として展開する大阪のスタートアップ企業。入居を検討する高齢者と入居者を探す介護施設の間を取り持つことで、介護家族の負担を減らし、高齢者の笑顔を増やし、ひいては超高齢社会への社会課題の解決に貢献することを目指しています。
創業者であり、代表取締役社長を務める榎並将志氏に、これまでの歩み、三菱UFJキャピタル(以下、MUCAP)との関係性、今後の展望についてお聞きしました。
現在に至る経緯
~ 自分を必要としてくれることに感動し、介護の分野へ
家業の不動産業の延長として「高齢者施設事業」の参入検討をきっかけに2010年に創業したのが笑美面のルーツです。少子高齢化で先細りになるのが見えていた住宅に対し、介護の分野は伸びると考え、取扱対象をレジデンスからシニアホームに移行するつもりでこの分野に進出しました。現場を知るためにヘルパー資格の取得をしようと介護施設での研修に参加したところ、認識が間違っていたことに気づきました。介護はどのようなスタッフが、どのようなサービスを提供するかに本質があるソフトの事業なのです。同時に、研修生でしかなかった自分のような存在でも「ありがとう、また明日も来てほしい」と現場で必要としてもらえることに非常に感動しました。研修が終わる頃には介護領域でビジネスをすると決めていました。
そこで注目したのが入居検討者とシニアホームのマッチングサービスです。不動産分野では当たり前だった物件探しのプロがいないことから着想しました。
入居費が高いとか入居待ちで人があふれていると言う人は当時も今も多いですが、それは誤解で、数が足りないのは特別養護老人ホームで、そうでない介護施設、たとえば介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームなどは、むしろ入居者を待ち望んでいるのです。この情報のギャップにビジネスチャンスがあると考えました。さらに、入居を諦めてしまったことに起因する、家族介護の負担の大きさから来る家族の離散、あるいは孤独死などの社会課題解決にも貢献できるのではないか、人の命を救う仕事であるとも考えたのです。
こうして2012年から本格的に介護領域事業を手掛けるようになり、現在に至っています。
三菱UFJキャピタルとの出会い
~ 売上よりも成約件数を重視する
マッチングサービス自体はすでに競合企業もありましたが、これを推進することが自分の使命だと感じていましたし、他の誰よりも速く、正しい形でサービスを全国に展開し、社会課題の解決につなげることができると考えていました。ビジネスをスケールさせるために上場を検討し始めたのが2016年頃のこと。2018年に初めてMUCAP大阪支社の担当者である加藤さんにお会いしました。
そのときにお話したことのひとつに、当社は売上よりも成約件数を重視するということがあります。これは私にしてみれば当たり前のことでした。たとえば、富裕層のお客さまの成約とそうではない層の方の成約。これは同じ1件です。むしろ、富裕層でない方の場合は情報不足に陥っていて、周囲に助けてくれる人もいない確率が高い。困りごとの程度感では富裕層の場合より大きかったりする傾向があり、困りごとを解決した度合いは大きいということになります。私としてはそこを評価したいと思っていて、それは売上の多寡と連動していない軸なのです。
こうした姿勢や考え方を、加藤さんは評価してくださったようで、MUCAPとのお付き合いが始まり、2018年の初回の投資から2023年10月の上場まで伴走していただきました。
三菱UFJキャピタルとのリレーション
~ こちらが求める以上の「ハンズオン」を実践してくれた
VCのセールストークに「ハンズオン」というのはよくありますが、このハンズオンを実践するのは非常に難しいことだと思うのです。何もしてくれないのはNGなのはもちろんのこと、手を出しすぎるのも、その企業が本当に求めていることでなければ、単なるお節介、ともすれば障害になってしまうと思うのです。
その意味では加藤さんのハンズオンは当社にとって理想的なものでした。資金調達のプロセスで、対応に難しい局面に対しても、実に適切な意見を話してくれ、会社間の調整も買って出ていただきました。また、その資金調達がとてもタイトなスケジュールになってしまったのですが、そのときも当社の都合を最優先に考え、まるで既存投資家のように動いて、励ましてもいただきました。当時、大阪・北浜のカフェで加藤さんにお電話で相談していた記憶は、鮮明に映像として残っていますね。
思い返すと、加藤さんは初めてお会いしたときから、当社のやってきたことや考えていることを、前向きに捉えていただいていました。取締役会のオブザーバーとして同席いただいていた時も、毎回、一番多く発言し、有用な意見・知見を提供していただきましたし、MUFGとして、お取引候補となる企業も数多く紹介していただきました。私たちが求める以上のことを、ハンズオンで実践してもらったという思いしかありません。本当にお世話になったし、感謝してもしきれないと思っています。
今後の展望
~ プラットフォーム事業を通じて介護を輸出産業に
2023年10月、インパクトIPOを掲げて上場を果たしました。インパクトIPOとは社会的なインパクトと財務的成長を両立するということを意味しますが、私としては介護事業に乗り出したときから考え方はまったくブレていません。高齢者と介護家族、どちらにも貢献できるということは、社会的に意義のある仕事ですし、超高齢社会が到来しているという意味においてもニーズはたくさんある状況です。私たちの事業には最初からインパクトがあったということなのです。経営手法の一環として2019年頃から黙々とやってきたことが、インパクトIPOの定義に当てはまっていたという感覚です。
今後の展開としては、シニアホーム紹介サービスに加えてシニアホームの質を高めるための情報提供サービスを行うケアプライム事業として、プラットフォームサイト「ケアプライムコミュニティ」を強化していく予定です。
シニアライフサポート事業を通じて培った9,250件(2023年10月末時点)のシニアホームさんとのネットワークを活かし、シニアホームを対象にしたプラットフォームは、立ち上げ約半年で登録ホーム数は5,335件を達成しました。優れたプロダクトなどの情報を届ける土壌を整備して、いいものができたらそれを世界に発信し、介護を輸出産業にすることも夢ではないと思っています。
そんな未来を目指して、初心を忘れず、お世話になった方々への感謝を忘れず、使命感を持って、全力で事業に取り組んでいく考えです。
若手経営者へのメッセージ
教科書的にいえば、起業して成功するには「ビジネスモデル」「戦略」「組織」が大事です。特に「ビジネスモデル」と「戦略」は勝ち筋を見つけることが大事で、そこは経営者のセンスが問われるところでしょう。私の場合は自分が「これをやりたい、これしかない」と思い込めたものに、勝ち筋があったのだと思います。最後の「組織」は、私も試行錯誤している最中ですが、ひとつだけ言えるとしたら、性格のいい人を集める、それ以外にないと思います。
2024年1月 取材
会社名
株式会社笑美面(えみめん)(Emimen Co.,Ltd.)
https://emimen.co.jp/
主な事業内容
シニアライフサポート事業(シニアホーム紹介サービス)、ケアプライム事業(シニアホーム運営コンサルティング)
沿革
2010年 | 9月 | 株式会社トータルプロデュースを設立 |
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2012年 | 1月 | 株式会社笑美面へ社名変更(シニアライフサポート事業開始) |
2015年 | 9月 | 「大阪市トップランナー育成事業プロジェクト」認定 |
2019年 | 5月 | アクサ生命保険株式会社と介護の分野における業務提携 |
6月 | 大阪信用金庫と「職員ならびにそのご家族介護支援サービス」において業務提携 | |
7月 | 住友生命保険相互会社と介護の分野における業務提携 | |
10月 | 住友生命保険相互会社とアクサ生命保険株式会社が共同開発した新サービス「ウェルエイジングサポートあすのえがお」参画 医療者とヘルスケアベンチャーを結ぶ、日本最大規模のビジネスコンテスト「Healthcare Venture Knot 2019 ヘルスケア最優秀オペレーション賞」受賞 社会インパクトファンドで運営するキャピタルメディカ・ベンチャーズから出資を受け、インパクトメジャメント&マネジメントを開始 |
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2020年 | 3月 | 「大阪市LGBTリーディングカンパニー認定制度」において三ツ星認証を取得 |
2021年 | 7月 | ケアプライム事業開始 |
10月 | 大阪信用金庫と「顧客介護支援サービス」において業務提携 | |
12月 | ISO 27001 認証取得(MSA IS 527) D&I Award 2021 「アドバンス」認定&中小企業部門「D&I Award賞」受賞 |
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2023年 | 2月 | D&I Award 2022最高位「ベストワークプレイス」認定&TIC賞を受賞 |
3月 | シニアホーム運営事業向けプラットフォーム「ケアプライムコミュニティサイト」をリリース | |
10月 | 東京証券取引所グロースへ上場(証券コード:9237) |