
株式会社ジンジブ
代表取締役社長 佐々木 満秀 氏
高卒採用に新たな風を巻き起こす
少子化が進む中、企業の採用活動はますます厳しさを増しています。この状況を打破すべくビジネスを展開しているのが株式会社ジンジブ。同社は、高卒採用における高校生・企業双方を支援するだけでなく、人事業務へのリソースが不足、あるいは軽視されがちな中小企業を支援し、日本を元気にすることをめざしています。
ジンジブを創業し、今も最前線で陣頭指揮を執る佐々木満秀氏に、これまでの歩みや三菱UFJキャピタル(以下、MUCAP)との関係性、そして今後の展望についてお聞きしました。
現在に至る経緯
~ 悔しい思いを背景に「成り上がり」を目指す

私は経済的に厳しい環境で育ちました。当時、周囲が自動車や家電を手に入れる中で、悔しい思いをたくさんしてきました。その経験が、経済的な豊かさを追い求め、「成り上がってやろう」という強い原動力となっています。
高校卒業後はトラックドライバーを経て、求人広告の代理店に就職しました。当時はまだWebが普及しておらず、新聞の折込チラシを使った求人広告の営業でした。お客様も中小企業様が多く、大手企業はそうした媒体には見向きもしなかった頃でした。しかし私にはそうした仕事が合っていたようで、中小企業の経営者の方々と真剣に向き合い、お困りごとに全力で取り組む日々を過ごしました。そうしているうちに、仕事でも結果が出て、常務にまで昇進できました。また、お客様にも恵まれ「佐々木くんのやることなら応援する」と背中を押してくださる経営者の方々にもたくさん支えられました。社会的にも認められているという手応えを得ていきました。
その後、残念ながらその会社は倒産してしまい、私は現場責任者として、債権者の方々への対応や社員たちの再就職支援に奔走しました。一段落ついたタイミングで「ピーアンドエフ」を個人創業しました。
前職時の経験を教訓に、次に自分が会社を経営することになったら、無借金の健全経営を心がけようと固く誓いました。余談ですが、こうした経験を通じて、自主独立を保ちながら、社会的弱者や小さな会社を応援していこうという信念も固まっていきましたね。
三菱UFJキャピタルとの出会い
~ 背水の陣で高卒採用に特化

ピーアンドエフは1998年に創業し、2000年頃に事業の方向性が固まりました。当時、携帯電話が爆発的に普及し始める時期で、これが一人一台のインフラになると予測しました。そして私の強みを活かすことからも、携帯電話が普及していく際のプロモーション、つまり広告や店舗作りを支援する仕事を始めたのです。これは好評を頂けました。当時、帝国データバンクの中小部門で「日本一」になるという目標を掲げ、実際に強固な財務体質を持つ会社に成長しました。
一方でその代償なのか、過労から体調を崩し、「成り上がる」という夢は実現したものの、喜びや幸せを感じられない状態に陥りました。この先の人生をどう生きていこうかと悩む中、その頃に「本当に社会に貢献できる事業」だけをやっていこうと決意し、自分の強みも活かせるいちばん大事なものとはなにかを考えはじめました。その結果、ビジネスモデルより「人材」だ、と定義づけたのです。この先、少子高齢化が進んで労働人材が不足する時代に、大手企業はともかく中小企業はそのあおりを直撃で受けてしまう。そこで中小企業を支援できる、「中小企業の人事部」になろうという思いと、同時に自社の人事機能も強化できる体制を作るために、人材のプロを採用して「ジンジブ」という会社を設立しました。
設立当初は大学生の新卒採用と中途採用の2軸で事業を展開しましたが、どちらもすでに先行企業が存在し、独自性を出すことが難しい状況でした。方向性を試行錯誤する中、そこで出てきたのが「高卒」というキーワード。私自身高卒でしたし、まずは自社から高卒を採用してみようとしたのですが、高卒採用にはいろいろなルールや制約があり、私が高校生の頃に就職活動をしていた環境と何も変わっていないということがわかったのです。これは何とか変革をしていかないといけない。当時、周囲からは市場的にも困難と言われていましたが、私としてはリスクを取ってでも絶対にやるべきだと考えました。そこで、ピーアンドエフをはじめ、利益の出ていた会社を全部やめて、ジンジブを高卒採用に特化した会社として再出発させたのです。
このビジネスは、高校生や親御さん、学校関係者、さらには厚生労働省や文部科学省がステークホルダーになることから、サービスを提供していくには確実に「信用」が必要になると考えました。知名度を上げ、世の中に高卒採用のルールには改善の余地が大いにあることと、このビジネス自体を知っていただくためにも上場が必須と考え、VCとのコンタクトを始めた中でMUCAPと出会いました。

三菱UFJキャピタルとのリレーション
~ VCとしての総合力の大きさ
この事業を成長させる上で、金融機関との関係性は非常に重要でした。というのも金融機関は取引先企業の財務状況をしっかり把握されており、特に私たちがターゲットに考えていた中小企業の情報が集約されている地銀や信用金庫との連携が必要不可欠だったからです。また、事業会社系のVCからの出資は、事業シナジーを優先する必要があり、一定の制約がつく場合もあります。その中でMUCAPとの出会いが大きな転機となりました。MUFGのブランド力を活用できることは非常に大きなメリットでした。そんなことからMUCAPに入っていただきました。
MUCAP担当者の佐藤さんに初めてお会いしたときの印象は、とにかく投資のプロフェッショナルというもの。事業のポイントや将来の展望など、微細にわたる質問をされました。私もただ想いを伝えるだけでは通用しないと感じ、事業の詳細や将来展望として考えていたすべてをお話しましたが、佐藤さんには非常に真摯に聞いていただけたという手応えも感じていました。幸い、MUCAPにリードを取っていただき、投資が決定したときはホッとしました。それが2020年のことです。
しかし、投資が決定した直後、新型コロナウイルスの影響で、かつてない厳しい時期が訪れました。当社も絶体絶命のピンチだったのですが、実はこの時、増資ではなく借り入れで乗り切ることを決断しました。増資などでVCを入れて株主を増やし、経営ジャッジが複雑化してしまうことを避けたかったからです。それともうひとつ、社会全体が縮小傾向というときに、この状況を乗り越えられたら絶対に成長できるという確信がありました。毎月莫大な赤字が積み上がっていく中、会社が潰れてしまうかもしれない、それでもこの事業を絶対に広めていくんだという想いで、突き進んでいきました。そうした動きにも理解を示してくださったMUCAPには本当に感謝しています。
おかげさまで2024年に上場することができましたが、そこに至るまでもMUCAPにはさまざまな支援をいただきました。金融機関の紹介や経営に関する助言など、佐藤さんには社外取締役に匹敵するような価値のあるご意見をたくさんいただきました。VCとしての総合力の大きさがMUCAPの持ち味なのではないかと感じています。
今後の展望
~ 「三方よし」を超えた「六方向満足」を目指して

上場してからも、課題がたくさん見えてきました。そのひとつが、高卒採用だけではお客様企業との取引が永続的になる可能性を高めにくいということ。高卒採用に特化はしましたが、そもそも中小企業の人事部になろうということで立ち上げた会社がジンジブです。その原点回帰的な意味で「人事部パック」というサービスを作りました。多くの中小企業は人事専門の部門を置いておられないということで、採用はもちろんのこと、教育や評価制度、福利厚生の整備といったサービスを提供するものです。
私は、ビジネスとはステークホルダーや社会に貢献すること、満足していただくことが真髄だと思っています。三方よしという言葉がありますが、私の場合は「六方向満足」、お客様、仕入パートナー様、株主様、社員やその家族、社会、そして自社。これらすべてが良くなる活動がビジネスだと思うのです。
高卒採用にはまだいろいろな制約や課題が残っていますが、その自由化に向けて、今後も最大限の努力を続けていきたいと考えています。それが私なりの六方向満足に至る道程なのです。
若手経営者へのメッセージ
経営とは本当に困難な道のりです。しかし、経営トップが「できない」と思ったことは、実現しないものです。「諦めたら終わり」とよく言われますが、それとは違って「やり抜く!できる!」と自分を信じて追求していくこと。それを続けていくこと自体が、成功に近づいていることになるのではないかと思っています。

2024年12月 取材
会社名
株式会社ジンジブ
https://jinjib.co.jp/
主な事業内容
高卒就職採用支援サービス
人財育成サービス
人事支援サービス
人材紹介事業(厚生労働省許可番号 27-ユ-303477)
労働派遣事業(厚生労働省許可番号 派27-304828)
沿革
1999年 | 7月 | 大阪府枚方市において、有限会社ピーアンドエフを設立 |
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2001年 | 9月 | 株式会社ピーアンドエフに変更 大阪本社を大阪市中央区に移転 |
2002年 | 8月 | 東京支店を東京都中野区に開設 |
2014年 | 2月 | 株式会社ジンジブ(旧事業子会社)を設立 |
2015年 | 3月 | 東京都港区を本社に、持株会社である株式会社人と未来グループ設立 株式会社ピーアンドエフ及び株式会社ジンジブ(旧事業子会社)を100%子会社化 |
5月 | 高校生のための新卒求人サイト「JOBドラフト」をスタート | |
2018年 | 5月 | 企業人事向け高校生採用メディア「高卒採用Lab」をスタート |
6月 | 株式会社社長室を設立 | |
2019年 | 4月 | 研修と定着支援を目的とした「ルーキーズクラブ」を提供開始 「JOBドラフト」を「ジョブドラフト」に名称変更 |
7月 | 高校生のための合同企業説明会「ジョブドラフトFes」を提供開始 | |
2020年 | 1月 | 株式会社人と未来グループを存続会社、株式会社ピーアンドエフ、株式会社ジンジブ(旧事業子会社)、株式会社社長室を消滅会社として吸収合併を実施 また、同日に株式会社人と未来グループの社名を株式会社ジンジブに変更 |
3月 | 第三者割当増資により、資本金9,800万円へ増資 | |
2021年 | 4月 | 本社を東京都港区から大阪府大阪市中央区へ登記変更 |
2022年 | 4月 | 「ジョブドラフトCareer」提供開始 |
10月 | 「ジョブドラフトNext」提供開始 | |
2024年 | 3月 | 東京証券取引所 グロース市場に新規上場(証券コード:142A) |
9月 | 中小企業向けの人事支援月額サービス「人事部パック」販売開始 |