有効な治療法がない病に向け、世界を変える薬を創る
株式会社ティムスは東京農工大学発の創薬型バイオベンチャー。高脂血症治療薬スタチンの開発者である遠藤章博士の研究室で、遠藤博士とともに17年間にわたって研究活動を続けてきた蓮見惠司博士らが起ち上げました。日本のバイオベンチャーとしては異例の海外の製薬大手との大型契約、そして2022年11月には満を持して東証グロース市場への上場を果たしています。現在、代表取締役社長を務める若林拓朗氏に、これまでの歩み、三菱UFJキャピタル(以下、MUCAP)との関係性、今後の展望についてお聞きしました。
現在に至る経緯
~ 急性期の脳梗塞治療に光明を
ティムスは東京農工大学発酵学研究室教授だった蓮見惠司先生らが、微生物から発見したSMTP化合物群の実用化を目的に2005年に設立されました。設立当初から地道な研究を重ねてきたSMTP化合物のひとつであるTMS-007は、血栓を溶かす機能と炎症を抑える機能の両方を兼ね備えており、急性期の脳梗塞治療において、大きな効果が得られることが期待されています。
2011年にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の助成金を受けて、本格的な開発を進めました。また、2018年には米国の製薬大手であるバイオジェン社と本邦のアカデミア発創薬ベンチャーとしては異例の大型の導出に関するオプション契約を締結しています。
私自身は、大学卒業後にリクルート社に入社し、新規事業開発やベンチャー投資などを手掛けていました。また、大学発の技術のマーケティングをサポートする事業に法務スタッフとして関わったこともあり、その経験をもとに、大学発ベンチャーに出資するVCを起業しました。その出資先のひとつがティムスだったのです。
2011年、当時のティムスは経営的に厳しい状況だったのですが、出資をしていたこともあり、このまま潰れてしまうのは惜しいと、共同代表に就任することになりました。その後、2018年に代表取締役となり、フルタイムで関わるようになりましたが、それもめぐり合わせというものでしょうか(笑)。
三菱UFJキャピタルとの出会い
~ 絶体絶命のピンチを初回の投資で救われた
2015年に最初に出資していただいたのは、当社にとって大きなターニングポイントになったと思います。当時はフェーズIの臨床試験をやっていたところですが、JSTからの助成金が尽きようとしており、とにかく資金を集めないと臨床試験が完了できないという状況でした。
MUCAPの当時の担当者は、もともと蓮見先生とはティムス設立以来の知り合いで、TMS-007の可能性に早くから注目されていたそうです。そして、ずっと投資のタイミングを見極めていて、2015年がその時だったと伺っています。そうしたタイミングだったので、出資を決断していただいたことで、本当に首の皮が繋がりました。当時はまだフェーズIの臨床試験の最中で、周囲を説得できるようなデータも不足しており、MUCAP社内には懐疑的な方もいらしたそうですが、あの時の出資の決断がなかったら今のティムスはなかったでしょう。
また、バイオジェン社との契約に際しても、MUCAPにバイオテック領域に通じた経営者の方を紹介していただき、その方を通じてライセンス交渉専門の弁護士と知り合うことができました。ライセンス交渉にはそれに長けた弁護士が必要になるということが当時の私たちにはわかっておらず、当然、どんな人に依頼すればいいのかということも知りませんでした。MUCAPの紹介がなかったら、その後のライセンス交渉もうまくいかなかったかもしれません。
振り返ると、ビジネスのターニングポイントになる折々のポイントで、MUCAPのサポートやアドバイスに助けられてここまで来ることができたと思います。
三菱UFJキャピタルとのリレーション
~ バイオテックに関する情報量の豊富さは一線を画している
MUCAPはバイオテック領域に関する情報量が非常に多いです。バイオテック領域に特化しているライフサイエンスチームには製薬会社出身という方もたくさんいらっしゃるし、この領域についての「目利き」が揃っているという印象があります。
特に、現担当者の垣内さんはアメリカのバイオテックの状況を本当によく見ておられます。他のVCでそこまでわかっている人はおそらく少ないでしょう。
私たちは日本のベンチャーですが、目論見書を英語で作成し、海外のファンドや機関投資家に積極的にコンタクトしていくグローバルオファリングによる上場を採用しました。採用にあたっては、NASDAQでのバイオテック上場において実績がある証券会社に関することや、競合となるNASDAQのバイオテックベンチャーでのビジネスに関することを知るのが不可欠でしたが、そうした意味で情報量が豊富で、しかもスピードも速いという点でMUCAPに助けられたことは多く、当社にとっては非常に大きなポイントであったと考えています。
今後の展望
~ 新たな薬、新たなパイプラインの開発に邁進
今後はTMS-007に続くパイプライン、TMS-008、TMS-009の研究開発に邁進していきます。TMS-008は強力な抗炎症作用があり、急性腎障害への適応を目指して研究開発を進めているところです。まだ承認された治療薬がない領域なので、実用化されれば大きな社会貢献ができると考えています。TMS-009はTMS-008と同等の薬理活性がありますが、化学構造などが異なるため、TMS-008のバックアップという位置づけです。他にも、新たな研究開発やアカデミアとの連携を通じてパイプラインを充実させていくことが目標になります。
また、グローバルファーマとの提携、グローバルIPOの実施などの実績を活かして、日本のアカデミアの研究成果を世界のマーケットとマッチングするサポートも積極的に展開していければと考えています。
若手経営者へのメッセージ
バイオテックの世界はベンチャーの果たす役割が大きい、というか、むしろ中心に位置している珍しい領域です。大企業が買わないような段階の大学発の技術をベンチャーが芽吹かせ、それがファイナンスされることで技術のポテンシャルが明らかになり大企業に買われる。その成功例を見て大学の研究が活気づく、そうしたサイクルを回す原動力がベンチャーなのです。
しかも、最初から世界のマーケット、機関投資家が相手です。誇りを持って取り組んでほしいですね。
2023年8月 取材
会社名
株式会社ティムス(TMS Co.,Ltd.)
https://www.tms-japan.co.jp/
主な事業内容
医薬品、医薬部外品、医薬品原材料、医療用機器及び医療用消耗品の研究および開発
沿革
2005年 | 2月 | 東京都渋谷区に設立 |
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6月 | 東京都港区に移転 | |
2007年 | 8月 | TMS-007の原薬製造検討を開始 |
2008年 | 8月 | 東京都府中市に移転 |
2011年 | 6月 | 東京都稲城市に移転 |
10月 | 独立行政法人科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援事業フィージビリティスタディ可能性発掘 タイプ(シーズ顕在化)に採択 |
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11月 | TMS-007の非臨床開発を開始 | |
2014年 | 8月 | TMS-007の日本における第I相臨床試験開始 |
2015年 | 9月 | 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「中堅・中小企業への橋渡し研究開発 促進事業」に採択 |
10月 | TMS-007の日本における第I相臨床試験完了 | |
2017年 | 5月 | 東京都府中市に移転 |
11月 | TMS-007の日本における前期第II相臨床試験開始 | |
2018年 | 6月 | TMS-007を米国バイオジェン社に導出するオプション契約を締結 |
2019年 | 8月 | TMS-008の原薬製造を開始 |
2020年 | 11月 | TMS-007前期第II相臨床試験の組入完了(90症例) |
2021年 | 2月 | TMS-008のGLP非臨床試験を開始 |
5月 | 米国バイオジェン社がTMS-007に関するオプション権を行使、TMS-007を同社に導出 | |
2021年 | 8月 | TMS-007 の日本における前期第Ⅱ相試験を完了 |
2022年 | 11月 | 東京証券取引所グロース市場へ上場(証券コード:4891) |