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三菱UFJキャピタル株式会社
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“Real Voices”“リアル ボイス”

Chordia Therapeutics株式会社
代表取締役 三宅 洋 氏

がん治療の未来を変える創薬へのチャレンジ

Chordia Therapeutics株式会社はがん領域の研究開発に特化したバイオベンチャー。近年の研究でがんにおけるRNA制御異常が、がんの発生や進行に大きく関与することがわかってきました。このRNA制御異常を標的とした低分子医薬品を生み出すことで、新たながん治療を具現化しようとしているのがChordia Therapeuticsです。創業者でCEOを務める三宅氏は、大手製薬企業の研究開発部門で実績を重ねてきた人物。その三宅氏にこれまでの歩み、三菱UFJキャピタル(以下、MUCAP)との関係性、今後の展望についてお聞きしました。

創業に至る経緯

研究人生の延長に「起業」という選択肢

高校の頃に利根川進博士がノーベル賞を受賞されたことをきっかけに、分子生物学に興味を持つようになりました。それまではわりと気ままに高校生活を謳歌していたのですが、一念発起して勉強に励み、大阪大学薬学部に入学しました。当時は利根川先生のようにノーベル賞レベルの研究をする研究者を目指しており、その後は東京大学医科学研究所に進みました。でも、学生の半分が離脱するほど厳しい先生の研究室で、研究生活に少し疲れてしまいました。また、博士課程1年の時に結婚して、3年の時に子どもを授かったので、慌てて就職活動をしたのですね。院生の募集はほぼ終わっていたタイミングだったのですが、運良く武田薬品工業株式会社に入ることができました。
武田薬品工業には19年お世話になりました。アメリカにも5年勤務し、最終的には日本の抗がん薬研究チームを率いる立場になりました。ところが2016年頃に研究開発組織の大掛かりな再編があり、当時の部下をはじめ、大勢の人の職場がなくなるという事態になりました。なんとか巻き返そうと動いた中で、起業したいと手を上げた人を武田薬品工業がサポートするプログラムが立ち上がったのですが、海外のリーダーたちは、いくら会社のサポートがあったとしても何人の手が上がるのかと懐疑的だったのですね。そんな中、アメリカの研究部門トップが来日するたびに、「ヒロシは手を上げるよな、起業はおもしろいぞ」と強く勧められていたのです。せっかくプログラムを立ち上げても、日本の研究所の要職に就いていた人の中から一人も起業者が出ないのもなんですし、アメリカ時代の同僚でバイオベンチャーを起業していた人が何人もいて、彼らにできるのなら自分にもできるだろうということで2017年に起業を決断したのです。

三菱UFJキャピタルとの出会い

研究者から経営者へ――知らないことだらけの船出

起業に際しては知らないことばかりで、まったく準備ができていなかった中、ご縁があってMUCAP担当者の長谷川さんと面談する機会を得ました。長谷川さんはバイオセクターに詳しいキャピタリストとして業界内ではよく知られていた方だったので、さすがに緊張したのですが、真摯にこちらの話を聞いてくださって、さまざまなアドバイスもいただけました。ただひとつ、武田薬品工業からの知財ライセンス形態に曖昧な部分があったことについて、「もう上層部に(出資の)話を通しているのに、それではだめです」と叱咤されたことはよく覚えています(笑)。それと印象に残っているのは、シングルパイプラインで起業するのか、複数のパイプラインを用意するのかについてのアドバイスです。少し悩んでいたのですが、日本での上場を考えているのなら複数の方が絶対にいいと助言をいただき、武田薬品工業と交渉して複数を獲得することにしました。今にして思えば、これは実に有効だったと思います。
とにかく、研究開発は得意で、何をするのにどれくらいのコストを要するのかということはわかっていたものの、起業や経営については何もわからないままに会社を起ち上げることになりました。シリーズA、Bと出資していただいたことはもちろん、事業計画の作成を長谷川さんに泣きついたり、第1期の決算資料の作成も助けていただいたりと、MUCAPのサポートがあってなんとかここまでやってこられたというのが正直なところです。

三菱UFJキャピタルとのリレーション

バイオテック上場のリアルと、VCとの理想的関係

2024年6月に東証グロース市場に上場したのですが、実はその1年前に一度上場を延期しています。多くの方にサポートいただいたおかげで、創業から比較的順調に進んできて、1号パイプライン、後のCLK阻害薬CTX-712に目処がついてきた2023年から上場を目指した活動を始めました。ところが、市況の悪化もあり、上場申請のタイミングで想定時価総額が当初想定の1/5ほどになってしまったのです。その後の機関投資家向けのロードショーでもうまくコミュニケーションできたつもりでいたのですが、蓋を開けてみれば結果は芳しくなく、上場取り下げになってしまいました。今にして思えば、それまで会社を支えてくれたVCと機関投資家ではバイオへの理解度がまったく異なるし、当社に対する見方や態度もまったく違ってくるということを私は甘く見積もっていたのですね。これは上場を目指すバイオテックの経営者にはぜひお伝えしたいことです。
苦い経験でしたが、こういう時にこそVCのカラーが出ると思います。MUCAPはどっしり構えていて、『会社がいいと思う方法で進んでください』と見守ってくれました。他のVCでリードが取れるポテンシャルのあるところは、どこかガツガツしているイメージがあるのですが、MUCAPの場合はリードも取れるのに、まったくガツガツしていないのです。困ったことがあって相談すればすぐに乗ってくれるし、経験値も知識も豊富なのに、どこまでもこちらを尊重してくれます。また、バイオセクターに精通している長谷川さんのようなキャピタリストが多くいらっしゃるのもMUCAPのユニークな点だと思います。

今後の展望

次なる薬が次の1年を生む、がん治療の希望をつなぐ挑戦

目下、1号パイプラインであるCLK 阻害薬 rogocekib(CTX-712)の臨床試験をアメリカで進めており、これをきっちりと薬にすることに注力しています。2号パイプラインは外部の薬品メーカーに導出していたものが返還されてしまったのですが、臨床試験に関するデータも移管される契約なので、またすぐに導出できると考え、そこに会社のリソースを注ぎ込む必要はないと判断しています。他のパイプラインもありますが、今はともかくrogocekibに全集中です。
がんの治療とは、新しい薬が登場してその患者さんが1年延命でき、その薬が効かなくなっても、別の新しい薬が出てくればさらに1年延命できる。たとえばそういう薬が5個あれば5年、10個あれば10年延命できる、というものです。そうした1ステップを実現する可能性というのは相応にあると思いますし、やりがいのある仕事だと考えています。

若手経営者へのメッセージ

私自身、まったく準備もないままに起業しましたし、経営もわかっていませんでした。でもMUCAP長谷川さんのように協力してくれる人たちと出会えて、上場するまでになりました。起業とは、そこまで特別な人間がやっていることではないと思います。やればできるということは伝えたいです。

2025年7月 取材

会社名

Chordia Therapeutics株式会社(Chordia Therapeutics Inc.)
https://www.chordiatherapeutics.com/ja/index.html

主な事業内容

医薬品、医薬品原材料の研究および開発

沿革

2017年 10月 Chordia Therapeutics 株式会社 設立
11月 シリーズAラウンドで総額約12億円の資金調達
2018年 11月 CTX-712 第1相試験開始
2019年 3月 シリーズBラウンドで総額約30億円の資金調達
2020年 11月 武田薬品工業株式会社から4プログラムの全世界での独占的実施権を獲得
12月 小野薬品工業株式会社とのMALT1阻害薬のライセンスアウト(2025年4月28日に権利返還)
2022年 5月 シリーズCラウンドで総額約40億円の資金調達
2023年 2月 CTX-712 米国での第1/2相試験を開始
2024年 6月 東京証券取引所グロース市場へ上場(証券コード:190A)
2025年 6月 「研究者、経営者になる。 がん新薬にかけるベンチャーの挑戦」を
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンより出版